市民館・図書館の指定管理者制度導入について

 川崎市は526日に「市民館・図書館の管理・運営の考え方(案)」を公表し、市民館全館と、図書館(12館中8館)への指定管理者制度導入の方針を明らかにしました。

 このことについて、自治体問題研究所の角田英昭氏より、川崎市の市民館・図書館への指定管理者制度導入問題について」をお寄せいただきました。

 指定管理制度とその問題点がよくわかる文章です。参考にご活用ください。

  6月1日から6月30日の期間でパブリックコメントを募集中です。

 パブリックコメント募集のお知らせについては川崎市のHPをご覧ください。
 https://www.city.kawasaki.jp/templates/pubcom/880/0000140387.html

 

川崎市の市民館・図書館への指定管理者制度導入問題について

 角田英昭(自治体問題研究所)

はじめに

川崎市教育委員会は、今年1月に「今後の市民館・図書館のあり方」(20213月策定)を踏まえて「市民館・図書館の管理・運営の考え方 中間とりまとめ」をまとめ、その中で「市職員のマンパワーを補完し、市職員が企画や新たな取組に一層注力できる体制の構築に向けて、指定管理者制度や業務委託の拡充等の民間活力の更なる活用の検討を進める」との考えを打ち出しました。そして市議会、関係団体等に説明を行うとともに、内部的には結論ありきで現行方式と指定管理者制度等との比較検討を行い526日に最終案を公表、そこで「市民館・図書館に指定管理者制度を導入する」との方針を明らかにしました。同時に6月1日からパブリックコメント(以下、パブコメ)を行うことも決め、利用者・市民への説明会も開かずに既に実施しています。パブコメは周知の通り一方通行で、双方向の議論ができない形式的なもので、行政側の「市民の意見を聞いた」というアリバイづくりになりかねませんが、それでも市民の率直な声を上げていくことは重要です。

今後の大まかなスケジュールは、パブコメは630日で終了、それを踏まえて教育委員会は8月に方針を決定し、8月~9月の市議会にパブコメ結果含めて報告し、来年6月に条例改正を行い、各館の指定管理開始時期に合わせて指定案件を議会に上程するという流れのようです。

いま図書館、市民館に関係する市民の皆さんが、慎重審議、導入反対に向けて学習会やパブコメ、市議会や教育委員会への陳情・要請など様々な活動に取り組んでいます。私もそれに協力する立場から、いま焦点の指定管理者制度とは何か、その制度的な枠組みや運用の実態を明らかにし、更に当局が行った現行方式と指定管理者制度等との比較検討結果の内容を検証したいと思います。これが今後の運動の一助になれば幸いです。

 

1.指定管理者制度とは何か

 今後の運動を進める上で、この制度の仕組み、原則、運用の実態、問題点・課題などを知っておくことが大事です。ここでは紙面の関係もあり簡潔に説明します。

(1)制度の創設、仕組み

この制度は、2003年の地方自治法の一部改正により創設されました。これまで公の施設の管理運営委託は、その性格上、公共団体、公共的団体、自治体が50%以上出資している法人に限定されていましたが、それを法改正では「管理者の指定」という形に改め、私人(団体)に設定できるようにしました。団体であればその要件に制約はなく、株式会社など民間事業者も参入できます。それが最大の狙いです。指定に当たっては、あらかじめ管理者として指定する期間を設定し、期間終了ごとに再指定を行います。指定は入札とは異なり公募という形で行われることが多いですが、実質的には競争性が伴います。

(2)法改正されても直営が原則

法の一部改正後も条文には「公の施設の設置の目的を効果的に達成するために必要があると認められるときは」という前文はそのまま残っており、その解釈は、「公の施設の管理は、その設置主体たる地方公共団体が直接これにあたるのが原則」「住民の利用をより有効、適切に行うことができる場合に...団体に委ねることを許容するというのが法の趣旨」(基本法コンメンタール「地方自治法」)です。その意味では、法改正後も直営が原則であり、管理を団体に委ねられるのは「公の施設の設置の目的を効果的に達成する」場合であって、経費削減など「もっぱら当該の地方公共団体の便宜のみに役立つにすぎないものは本項の要件を充足しない」()とされています。これが基本であり、制度運用に当たっては自治体にこれを徹底させていくことが必要です。

(3)指定管理者制度のどこが問題か

1)企業にとっては税金を使って建設した公共財を利潤追求の道具にできる「先行投資の要らない格好の市場」であり、「公の施設」が企業のビジネス、収益活動の道具にされかねません。

2)実際に現場ではどのような問題が起きているのか

①何より問題なのは、自治体が選定委員会を設け、審査し、議会の議決を経て指定した「公の施設」の指定取り消し等が、制度の本格実施以来15年間で12,212件にもなっており、しかもこれらの施設の半数以上は、その後に統廃合、休止、民間への譲渡・貸与等に追い込まれています。経営困難、業務不履行等による撤退も増えています。

②指定管理者の選定に当たっては、公募が徹底され、競争性を強め、管理経費の抑制・削減が徹底されています。

③管理経費の削減は、雇用や賃金・労働条件の改悪に直結し、正規職員が減らされ、派遣、非常勤・パートに置きかえられています。また、再指定のたびに雇用不安、賃下げなどが現実化し、解雇問題も発生しています。こうした中で職員は将来に展望が持てず、専門職は意欲をなくし、辞めていく人も増えています。更に派遣、非正規化、職員交替が続く中で、組織に専門性、経験が蓄積されず、チームワークも低下し、利用者が不安定になり、事故も増えています。

④国・自治体では民間企業の参入を奨励しており、民間企業側も利潤確保のため、よりメリットの高い分野への参入を検討し、かつ「公の施設」の目的外使用やオプション事業を認めるよう要求しています。こうした中で「公の施設」のあり方が歪められています。

⑤最近の事例を見ても川崎市民ミュージアムなどはその典型です。

同施設では、制度の導入に伴い副館長が1年で雇い止めされました。移行前の財団法人時代に比べて賃金が大幅にダウン、学芸員の賃金増や組合結成の必要性を訴えたためです。同施設では「指定管理者制度の導入に伴い、同社に移った学芸委員は16人中9人にとどまった。その後も離職は続き、本年度に入ってからは館長、学芸部門長も退職する異例の事態」(神奈川新聞)となりました。副館長は「このままでは若い学芸員のモチベーションは上がらない。寄贈者との信頼関係にも影響が出る。ミュージアムの質が確保できるのか心配だ」()と述べています。現在、従業員としての地位確認等を求めて係争中です。なお、同施設はその後も台風で貴重な資料23万点を水没させるなどの不祥事があり、直営(業務委託)に戻されたと聞いています。

                             

2.現行方式と指定管理者制度との比較検討結果をどうみるか

それでは、最終案で示されている現行方式と指定管理者制度等とを比較検討で、市当局はどう述べているのでしょうか。その内容を個別項目ごとに検討してみたいと思います。

<公共性の担保>

○指定管理では「公共性を保つためのチェックをしっかりと行う必要がある」と述べていますが、当局としてそれを実際にどう行うのか、それを具体的に示すべきです。

<人員体制> 

○専門性 「業務要求水準書に示すことで専門性の高い人材の確保ができる」と述べていますが、図書館、市民館の場合、指定管理者に求める要求水準とは具体的にどのようなものなのか。

また、それで現状と同等、又はそれ以上の「専門性の高い人材」をどう確保できると考えているのか。現実的に指定管理者が具体的に特定されていない中で、どうしてそう言えるのか。その根拠を明らかにすべきです。

○人員配置 指定管理では「柔軟で弾力的な人員配置ができる」と述べていますが、その内実は具体的にはどのようなことか。実際には採用形態の弾力化にシフトし、多様な非常勤配置を前提にしていないか。それで安定的、継続的な運営ができるのか。

    指定管理では、仕事・雇用・賃金等が不安定になり、将来展望が持てないとして専門職が辞めていく事例も多く、先に紹介した川崎市民ミュージアムの事例はその典型であり、こうした事実を市当局はどう考えているのか。

○知識の継続 市職員がこれまでに培ってきた知識やノウハウ等の継承も問われていますが、それをどう的確に行うのか。指定管理では指定期間ごとに公募、再指定が行われ、管理者が全面的に変わる可能性もあり、それでは更に継承が困難になります。

<事業サービス>

○柔軟な利用時間 指定管理ならなぜできるのか。どのような対応を想定しているのか。もし本当に必要ならなぜ直営でやらないのか、できないのか。

○館内利用サービス 指定管理者には一定の裁量権があるから「サービス向上が期待できる」と述べていますが、その根拠は何か。直営の場合も館長には一定の権限があるのに、なぜ「全館横並びのサービス」なのか。改善・向上が期待できないとする理由は何か。

○施設管理、施設修繕等 当局も指摘しているように、指定管理者には一定の管理権限(裁量)が委ねられており、トラブルなど何かあった時の市の責任の所在が不明確にならないか。これにどう対処していくのか。役割分担、リスク分担がきちんとされるのか。

○事業イベント、自主事業等 「他都市等での実績を踏まえたノウハウを活用できる」「課題に即応した柔軟な対応がしやすい」と述べているが、指定管理者はすべて「他都市等での実績」に精通しているのか、そういう指定管理者を確実に選定できるのか。

<予算> 

○予算の形態 直営は「単年度予算であるため、長期的な展望を立てにくい面がある」が、指定管理者は「提案時に、指定管理期間全体の収支計画を提出させて、債務負担行為設定し、複数年で予算を確保するため、長期的な視点で事業の組立ができる」と述べていますが、①直営でも創意工夫によって年度をまたぐ予算・事業執行は可能ではないか、②指定管理者制度の下で複数年対応というが具体的にどんなことを想定しているのか、そんな長期的な事業を総額が決められ低く抑えられている指定管理料の中でどうできるのか。

○収支バランス 「指定の継続に繋げるため、費用対効果を踏まえた効率的な運営を行う傾向にある」と述べているが、これは指定管理者に経営(運営)の合理化を迫るものであり、それでないと継続して指定管理者になれない(指定しない)という脅しにも見える。これで質のいい安定的なサービスが提供できるのか。

3.指定管理者制度の導入は妥当か

以上のような検討結果を踏まえて、市当局は直営では「現在の限られた人的資源やノウハウでの対応では、多様なニーズへの対応やサービスの充実に向けて、広がりのある事業・サービス展開を行うためには難しさがある」、「指定管理者制度については、人員体制や事業サービス面においてメリットがある」等と述べ、市民館・図書館に「指定管理者制度を導入する」と結論付けています。

しかし、上記のような検討結果から、かかる結論を明確に導き出せるのでしょうか。直営の場合の難しさについては、なぜそうなのか、必要な見直しや創意工夫、改善はできないのか、具体的、客観的な検証は行われていません。指定管理者制度を導入するメリットについても、明確な理由、根拠は明示されておらず、また指定管理者制度の持つ問題点、課題についての検討も殆どされていません。課題として指摘されている公共性の担保、知識や経験、ノウハウの継続なども具体性がなく、玉虫色です。その意味では、指定管理者制度を導入するという結論には説得力がなく、拙速、安直であり、妥当とは言えません。改めて利用者、市民、関係者、専門家らの意見や声をよく聞き、施設本来の設置目的、趣旨を踏まえ、事実に即した検討、検証をしっかり行い、導入方針を全面的に見直すべきです。

                                       以上